不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」/新井潤美

聴講している文学部の講義「近代イギリス小説」で参考図書として挙げられていた一冊。

イギリス文学にある独特の「意地悪さ」を読み間違えないためには、「階級意識」を知る必要があるようです。

 

 

イギリスの階級は大きく分けて、Upper-class, Middle-class, Working-classとなります。

Upper-classは貴族などの上級社会。Middle-Classはかなり細かく分けられています。

Upper-middle, Middle-middle, Lower-middleという分けられ方。

Upper-middleに入るのは、聖職者、研究職、法律、医者、軍隊の士官クラス、金持ちの商人、そしてSirという称号の准男爵もここに入ります。

このUpper-middleにも当然階層がありまして、上層が准男爵や聖職者、下層にいるのが事務弁護士や医師なども・・・。

けっこうこんがらがってきました・・・。

 

 

読んでいて、特に面白かったのは、

ヘレン・フィールディングの映画「ブリジット・ジョーンズの日記」でのトイレの挿話。

 

映画の中で、会社主催のパーティがあったのですが、ブリジットが「トイレ(toilets)はどこですか。」と訊くのに対して、

上司が「お手洗い(loos)はどこでしょうか。」と尋ねる描写があります。

このシーンは原作ではなかったのですが、映画化にあたり微妙な階級の違いを表すために入っていて、

読んでいて「そういう意図があったのか!」と思わず驚きました。

そして同時に、イギリスで演じる俳優がどれだけアクセントに苦労しているかが、すごーく理解できます。

どんなに高級な装いをしていても、喋る言葉で「半生がわかってしまう」のがイギリスですから…。

そう思うと、「ブリジット・ジョーンズの日記」と95年にBBCで放映された「高慢と偏見」でダーシーを演じていたコリン・ファースがすごいなぁ、と。

2010年に「英国王のスピーチ」でイギリス王ジョージ6世を演じていたので、

優雅なアクセントに全く違和感がない、その俳優ぶりにとにかくびっくりしました。

だからこそ、別の映画ですが「ピグマリオン」「マイ・フェア・レディ」の言葉へのこだわりが成り立つんですね^^

 

 

言葉・発音にかなりの要素を持っていて、それが映画化されたり翻訳されるときに原作の要素を相当失うことになるのは、もはや明らかです。

やっぱり、原作のテキストを読まないと!

日本でもよく知られた映画が例に出されて、イギリス階級意識を見ていくので、

思わず「あ、なるほど!そうだったのか。」と腑に落ちるシーンが出てくるはずです。

言い換えれば、このような階級意識を知っていると、映画を観る目も変わると思います。

 

 

 

 

【要旨】

われわれはイギリス小説を読む。その映画化作品も見る。だが、本当にその面白みを理解できているだろうか?

スノッブで、イジワルで、「階級」にとらわれたイギリス人、その作家たちが書く文章には、「階級」にまつわる揶揄と皮肉が練り込まれ、

行間には棘がひそんでいる。そして、映画ではそれらがどう変容され、また強調されているのか?

小説と映画から、イギリス社会とイギリス人の心理に深く重く沈潜する「階級意識」を読み解く。

【目次】

  1. ラヴ・コメディ今昔(嫌われるヒロイン?-ジェイン・オースティン『エマ』;エリザベス・ベネットが九〇年代のロンドンにいたなら?-ヘレン・フィールディング『ブリジット・ジョーンズの日記』)
  2. 働く女たち(逆境の淑女、ガヴァネス-シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』;なぜナニーは不機嫌なのか-P・L・トラヴァーズ『メアリー・ポピンズ』 ほか)
  3. 階級と男たち(ジェントルマンと教育-チャールズ・ディケンズ『大いなる遺産』;愛を勝ちとる「格下の男」-E・M・フォースター『眺めのいい部屋』 ほか)
  4. イギリス人が異世界を描けば(「ユートピア」は階級社会の行く末?-H・G・ウェルズ『タイム・マシン』;悪の権化はなぜ「フツーの人」になったのか?-アントニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』 ほか)
  5. マイノリティたちのイギリス(日系作家の描いた「古きよきイギリス」-カズオ・イシグロ『日の名残り』;「新しいイギリス人」と越境する新世代-ハニーフ・クレイシ『郊外のブッダ』ほか